松尾芭蕉『笈の小文』
西行の和歌における
宗祇の連歌における
雪舟の絵における
利休の茶における
其の貫道する物は一なり
しかも風雅におけるもの
造化にしたがひて四時を友となす
見る処花にあらずといふ事なし
おもふ所月にあらずといふ事なし
像花にあらざる時は夷狄にひとし
心花にあらざる時は鳥獣に類す
夷狄を出て
鳥獣を離れて
造花にしたがひ
造化にかへれとなり
移り変わる自然の変化にみずからを
委ねるとき
見えるものすべてが花となり
思い浮かべるものすべてが月となる
もし見るものが花ではなく
思い浮かべるものが月でないとすれば
それはいまだ詩歌の心を知らない野蛮な人
であることを示している
「序ー日本文化の自画像を描く」より抜粋